伝統工芸 サービス

株式会社西川貞三郎商店

海外のお客さまに愛される清水焼を提案する

2022/11/01

西川貞三郎商店商品写真

清水焼の陶房が軒を連ねる京都・五条坂。
西川貞三郎商店はその地で、1917年の創業時より、京焼・清水焼を中心とした陶器・磁器などを国内外に販売してきた企業です。

国内需要が伸び悩み、職人離れが進む伝統産業にあって、同社では、創業以来の貿易事業を強みに、海外ニーズをふまえた新たな商品の開発や、コロナ禍においてもオンラインでの販路拡大を積極的に展開。欧米はもちろん、中近東、東南アジア諸国や中国、オーストラリアなど世界数十か国に商品を販売しています。

代表を務めるのは、西川加余子さん。「天職だと思っていた」というフランス国営企業での仕事をやめて家業を継いだ想い。そして、世界に向けたものづくりへの想いを語ります。

五条坂にある西川貞三郎商店

伝統工芸品輸出の草分けとして

弊社は、創業者である祖父・貞三郎の時代から、京焼・清水焼の企画製造と、それらをはじめとする伝統工芸品を国内外へ販売しています。当時から、瀬戸や多治見の美濃焼等他産地の商品もコーディネートし、「NISHIKAWA  JAPAN(西川ジャパン)」の名で海外に販売していたようです。

1941年に父が家業を継いでからは、そうした貿易商社としての部門を拡大しながら、清水焼の製造という2つ部門で、事業を営んできました。

今でこそ海外に目を向けられる企業さまが多くいらっしゃいますが、弊社は100年以上前から海外への輸出業を行っているのが大きな特長です。ドイツのフランクフルトで開かれるアンビエンテの見本市をはじめ国際的な展示会には毎年出展し、販路を開拓していました。

1958年 の ブリュッセル万国博覧会展示会場 出展準備風景。右が創業者の西川貞三郎さん。清水焼をはじめ、京都の伝統工芸品を海外に紹介した草分けのひとり。

憧れのパリ生活

私はここ五条で、清水焼に囲まれて育ちました。

家業柄、海外からのバイヤーの方がおみえになることも多く、父はドイツ語を専攻していたためドイツ語と英語を話せたのですが、フランス語はできません。「フランス語ができるといいぞ」と、父によく言われながら育ったからでしょうか、マルセル・プルースト研究の第一人者であり、『失われた時を求めて』の個人全訳で知られるフランス文学者の叔父の影響からかいつしかフランスへの憧れが芽生え、学生時代は第2外国語でフランス語を専攻しました。

学生時代に父に連れられて行ったパリ、その頃から「とにかくパリで仕事に就きたい」と考えるようになり、卒業後にエール・フランスの求人を見つけたので応募したら採用に。それで、23歳のときに渡仏しました。

就職してからはフライトアテンダントとして、世界中を飛び回りました。私の場合、アテンダントになりたかったというよりも、たまたまパリで仕事に就きたくて見つけた求人がそれだったのですが、接客業にこんなに向いていたとは自分でも驚きで、本当に天職だと思いましたね。海外でこの仕事に就けたのはものすごく幸せだったと、実感しています。

だからね、まさかそんな仕事を捨てて、26年のパリ生活に終止符を打って日本に戻ってくるとは、想定外だったんですよ(笑)

パリ時代の西川加余子さん。ボーイング747型機 ファーストクラス機内でのサービス風景(ご本人提供)。フライトアテンダントとして世界中を飛び回った経験が、新しい清水焼の提案という今の仕事につながっているという。

「京焼・清水焼をなんとかしなくちゃ」

家業を継いだ直接のきっかけは、父が病気を患ったことです。ですが、その前から長年、父がフランスで商談に行くときは同伴していましたし、フランクフルトの見本市でも手伝う機会があったので、身近ではありました。父の病気の療養期間が長く、エール・フランスも多様な働き方を認めていたので、半分は日本での仕事を手伝い、半分はフランスで仕事をする二足の草鞋を履く生活が10年ほど続きました。

その間、日本に帰る度に京都の変化を目の当たりにするんですよね。とても素敵な清水焼のお店が廃業されたり、町家が少なくなり、職人さんは高齢化でどんどん減っていく。

京都生まれの京都育ちで、陶器に囲まれて育った私は、これがつらかったんです。「これはもう、他産地の製品ばかりを輸出している場合じゃない。京都の清水焼をなんとかしなければいけない」という想いが強くなったんですね。

それで、エール・フランスでのキャリアも落ち着き、「経験すべきことは全部経験できたかな」と感じた50歳という節目の歳に、完全帰国したのです。

他社にできない清水焼のブランドをつくる

こうした想いがありましたので、父の商売を継ぎ、まず着手したのが「ブランディング」でした。京焼・清水焼を、他社製品と差別化できる形で、海外の方にわかりやすい、しっかりとしたブランドとして確立させること。

経営的な視点でも、京都・清水焼を製造している作り手の会社でもあるということが、ほかの貿易商社とは違う点です。だからこそ、その強みを生かしたブランディングが大事だと感じたわけです。

そこで、弊社なりのオリジナルブランドとして3つのブランドを立ち上げました。それが、現在弊社の看板製品としてご紹介している「貞雲」「見立て」「かより」というブランドです。

貞雲の商品例
『貞雲』の商品例。ブランドコンセプトは「技と伝統を味わう」。清水焼の伝統である「描詰」を施した商品を扱う。
『かより』の商品例。「華やかさを遊ぶ」をコンセプトに、絵付けに西洋的な色合いやモチーフを大胆に取り入れてみるなど、新しい京焼・清水焼を提案する。
『見立て』の商品例
『見立て』の商品例。コンセプトは「景色を感じる」。釉薬の重なりが作り出す無限の表情は、古くから茶の湯の世界では景色(けしき)と呼ばれ、移ろいやすい日本の風景になぞらえられてきた。その景色を感じるブランドが『見立て』だ。

いっぽう、弊社のもうひとつの強みは、創業以来の貿易商社としての経験から、他産地とのつながりがあり、異素材を組み合わせた新商品の開発ができる点です。この利点を生かした商品開発にも取り組んできました。

例えば、父の時代からお取引があった南部鉄器。黒くて重くて、日本では需要が減り始めた南部鉄器の急須ですが、海外では受け入れられるのではないかと、カラー急須として考案し世界中で大ブームに。私の代では、華やかな清水焼と組み合わせて提案したところ、保温性と高級感と装飾性を兼ね備えた商品として、10年以上たった今でも売れ続けているロングセラーです。

ほかにも、秋田の曲げわっぱに清水焼を組み合わせた酒器を商品化。秋田杉の流れるように美しい木目と、清水焼の雅な色絵がコラボした商品で、海外のお客さまにご愛用いただいています。

南部鉄器とのコラボで生まれた商品。京焼・清水焼の蓋とカラー鉄瓶急須、汲出し碗の組み合わせ。
秋田の曲げわっぱとのコラボで生まれた、西川貞三郎商店オリジナルの酒器。

海外で愛される商品とは

海外で受け入れられる商品をつくるには、国ごとに生活様式や流行、使い道が全然違うわけですから、その国の生活をイメージした使いみちを提案することが大切です。日本のものをそのまま持って行っても、海外で売れるとは限らないわけですね。私の場合、パリでの生活を通じてパリジェンヌの器のコーディネートの仕方や特徴を学ぶ貴重な機会をいただいたことは大きな財産になっています。

たとえば、茶道で使われる抹茶碗は、茶道人口が減ったせいで国内では売れなくなってきていると聞きますが、じゃあ海外で売れるかというと、「抹茶碗として」しか提案しないなら、やっぱり売れにくい。

そこで、「これにかき氷を入れたらどうなの?」「カフェオレを入れてみたらどうだろう?」「国によっては、ボウルとして使えるかも」。そうやって新たな使い方をご提案していけば、売れるんですよね。

私が目指しているのは、美術品のような鑑賞目的の品ではなく、お客さまの日々の生活で実際に使われる商品なんです。ですから、伝統工芸品の魅力を生かしながら、お客さまにとって使い勝手のいい商品づくりと、使い方の提案を合わせて行っていくことが大事だし、私がやりたいことだなと感じています。

抹茶椀にカラフルなお菓子を入れて。西川貞三郎商店オンラインショップの商品ページから拝借。
パリジェンヌの日常にとけこむ京焼・清水焼(西川貞三郎商店オンラインショップから拝借)

目指すのは、生活になじむ京都らしさ

ここ2年ほどは、新型コロナウイルス感染症の影響で海外の見本市での出展ができず、オンラインに力を入れてきました。3Dバーチャル展示会を開いたり、JETROさんの推薦する展示会にオンライン出展させていただいたり。

今は新たに、他産地とのコラボでの新しいブランドの開発や、来年の2月のドイツフランクフルト国際見本市や東京ギフトショーでも新たな商品をお披露目したいなと、あれこれ並行して取り組んでいます。

やりたいことが多すぎて毎日ヒーヒー言っているんですが(笑)、きっと好きなんですよね、新しいものを生み出すのがワクワクするといいますか。

生活になじみ、ちょっと京都を感じさせるもので、海外のお客さまたちが「This is my favorite cup(これが私の大好きなカップなの)」と言いながら仕事の合間に少しくつろいだり、プライベートでの静かな時間を過ごすためのお茶だったり、お客さまとの団らんに使って頂けるような、どの空間でも皆様に愉しんでいただける商品をつくっていきたい。全国の産地や色々な作り手、素材ともコラボしながら、NISHIKAWA JAPANのファンを増やしていきたいと願っています。

(取材日:2022年8月23日 / 写真提供:株式会社西川貞三郎商店 / 取材・文:編集事務所coillte立藤慶子

紹介動画

会社概要

社名 株式会社西川貞三郎商店
所在地 〒605-0841 京都市東山区大和大路五条上ル山崎町377
事業内容 京焼・清水焼の製造卸、伝統工芸品などの輸出など
設立 1917(大正6)年
ホームページ https://www.t-nishikawa.co.jp/
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